本稿はLittle Nightmaresを個人的に解釈し、考察したものです。
劇中にセリフやテキストが出てこないので、キャラクターや風景の描写から推察するしかなく、正解のないリドルストーリーになっていますが、一貫した風刺や比喩が見え隠れしています。
本稿では、20世紀初頭における現実の孤児達の話、ウィルスのパンデミック被害を擬人化し、Mawという場所に置き換えたメタファーの物語として解説しています。
あくまで解釈の一つに過ぎないので、その点だけは留意しておいてください。
目次
リトルナイトメアの寓話性

寓話とは、比喩や擬人化などの要素によって、過去の失敗などを照らし出したり、道徳の重要性を表現したりする作風です。風刺や擬人化などの要素が含まれており、童話の中には寓意を含むものも少なくありません。
代表的な例として「不思議の国のアリス」は、表向きこそ少女を主人公としたファンタジーなんですが、当時のイギリスにおける社会、政治、民衆に対する風刺が多分に含まれています。
童話の中には、過去に起こった悲惨な出来事をモチーフにしている例もあり、「ヘンゼルとグレーテル」は大飢饉のおりに多発した子捨てがモデルだと言われています。
ではリトルナイトメアの世界はというと、これも一見するとファンタージですが、キャラクターの背景の描写には一貫した側面があります。
例えば1作目の冒頭部分では、誰かの自殺現場から始まり、児童養護施設と思われる場所を探索することになります。これは主人公の生い立ちや、今置かれている状況を説明するためのものと見られます。
- キャラクターの背景となる現実的な描写
- 子供の恐怖心という脚色が入った抽象的な表現
- ホラー作品のパロディ・オマージュ
- 特に意味がないだろうお遊び・匂わせ
等々の要素が本作には詰め込まれており、1見すると脈絡がないような、非現実的な世界を形作っています。見る人によって様々な解釈ができ、正確な答えがないリドルストーリーを目指した作品です。
本投稿ではそれらを切り分けて、各種要素についての考察するとともに、バックボーンになっている現実的な世界の描写、事件の流れを追っています。
シックスの正体

シックスは本作の操作キャラクターで、リトルナイトメアズに登場する黄色い雨合羽を着た少女です。
腹ペコ系のキャラクターで弱々しい存在ですが、彼女の持つ飢えはやがて暴走し、多くのものに牙を剥きました。
ノームを食い殺し、レディを食い殺し、果てはゲスト達を数多に殺傷。ラストシーンでは行き場の無くなった孤島に取り残されており、彼女の物語はバッドエンドを迎えました。
強い二面性でプレイヤーを驚かせましたが、それもその筈で2つの存在を一人として描いています。お腹を空かせた孤児の少女と、彼女の中で変異したウィルスの擬人化という二つの側面を持っています。
ミステリ小説などでは使われることがあるトリックの一種です。
孤児のシックス
成熟していない子供で、生い立ちからして精神的に問題があるかもしれないという「信頼できない語り手」になっています。
劇中の情報から推察する少女であるシックスの生い立ちは、保護者の自殺から孤児になってしまった少女です。

冒頭部分の自殺者。肉親だと考えるのが妥当でしょうか。
孤児院に収監された彼女ですが、その生活は我慢できるものではなかったようで、監視の目をかいくぐり、管理人の腕を切り落として外へと逃げ出します。
果たしてそれは正しい行動だったのか、それは定かではありません。
自由になったシックスを待ち受けていたのは、今までと変わらない飢えとの戦いでした。
罠に掛かったネズミを食べるまでして、少女シックスは空腹を凌ぎますが、その行動こそが彼女を病原体のキャリアへと変えてしまいます。野生動物を食べることで、人間に伝染病やウィルスが持ち込まれる例は多々あります。
例えば、2020年の新型コロナウィルスもコウモリ由来のウィルスだと言われています。

ネズミの病気が人類に感染する原因となったシーン
病原体の擬人化
それ以降のシックスは空腹に突き動かされるとき、咳き込むような仕草を見せるなど、病原体との同一性が表れるようになります。
病原体の飢えとは、自身を増殖させる欲求に他なりません。
シックスが盗み食いをしていたと思われるキッチンのコック達も、彼女と同じように咳き込み始めることから、シックスを媒介として感染が拡大していることが見えてきます。

少女シックスの仲間であった筈のノーム、恐ろしい存在であったレディをも食い尽くすなど、病原体の増悪は留まることを知らず、やがてラストシーンへと繋がっていきます。
飲食店街だった場所で、浮浪児だったシックスが動き回った結果、病原体は瞬く間に感染を広げてしまい、そこにいた客たちを初めとして数多の人物を殺傷しました。

飛び交う蠅は疫病の伝染者としてのベルゼブブ(7大悪魔の6番目)をモチーフにしており、呻き苦しむゲストの姿も合わせて、これがパンデミックを表すのではないか、という劇中で最も強い示唆になっています。
ここから逆算してみると、脈絡のない残忍性に見えたシックスの描写がウィルスの行動を表現しているのだと分かるミステリチックな構成になっています。
リトルナイトメア-ズ-(英語だと複数形)というタイトルが持つもう一つの意味もここで回収されます。
- 子供達の悪夢
- 人々を死に至らしめる小さな悪魔たち
ラナウェイ・キッド

キッドはDLC3作品に登場するもう一人の主人公です。パッケージにシックスが映っていますが、劇中ではまるで関与しません。
劇中の表現からは、水難事故で両親を失い孤児院に収監されたようですが、シックスと同じく脱走しました。
その後の彼は色んな場所を転々としていたようですが、変態おばさんを感電死させたのち――なにがあったんだろう(すっとぼけ)、ノーム達が働く炭鉱に流れ着いて孤児たちのリーダーに収まります。
どうもキッドには高い行動力とリーダーシップがあったようです。
ノームの正体
答えのない作風になっていますが、これだけはDLCのラストで明確に答え合わせされています。
ノームとはヨーロッパの伝承における働き者の妖精です。炭鉱などに棲息して人間を手伝ってくれると言われていますが、ノームたちが暖炉にあたって休憩しているシーンにヒントがあります。

そこにいるノームたちの影は、人間の子供になっており、その正体が鉱山で働かされている児童労働者であることが分かります。
この辺りの歴史的事情は有名な写真家がいるのでリンクを乗せておきます。20世紀前半における過酷な児童労働者の姿を捉えています。
最初の犠牲者
すっかり浮浪者としての生活が板に付いてきたラナウェイが辿り着いたのは、レディの経営する店でした。
そこでレディの持つコンプレックス、年老いて失われた美貌という秘密を知ってしまったが故に資産家であった彼女の鉱山に捕らわれてしまいます。
そしてノームとなった彼を待ち受けていたのは、突然変異を起こした伝染病でした。

DLCのラストシーンで、この直後にシックスに襲われます
シックスに襲われた次の人物が、実は老女であったレディであったこともあわせて、伝染病の犠牲が免疫が弱い子供、老人から始まるという側面を表すことになっています。
怪人たち
リトルナイトメアでは様々な怪人たちが登場しますが、子供たちの恐怖心というフィルターが掛かっている面を考慮しなければいけません。
本項では時代背景から見えてくる、怪人たちの元ネタについてになります。
管理人

盲目の管理人で、子供達を人形にしてしまう怪物……とシックスは思っていました。
舞台となっている20世紀初頭の欧米では、孤児院の管理などは誰もやりたがらず、普通の仕事には付けないような人の就職先にもなっていました。管理人が盲目であることは、そんな世情を表しているように思えます。
複数に渡って登場しますが、それが同一人物であるという保証はありません。
特に序盤の管理人はしがない靴職人であり、夜な夜な子供たちのオモチャを自作しており、収入が少ないのか、自分が来ている衣服もみすぼらしい。
そんな彼の腕を切り落とし、施設から飛び出したことは様々な意味でシックスの分岐点となったのではないか……と思います。
レディ

シックスの姿は見せかけのもので、実は年老いた女性でした。
レディは高級料理店、子供達を酷使する鉱山等を経営する資本家の女性で、厚塗りの化粧によって自身の歳を偽っています。
自身の美貌に自身を持ち、それに執着していた彼女は、素顔を見てしまったキッドを捉えて、ノームに変えてしまいます。
伝染病の犠牲者は免疫の弱い子供や、年寄りが多いというヒントの一助になっています。
また本作はウィルスパンデミックの擬人化という側面が見られますが、元ネタと思われるSARSウィルスの発生場所と姿形が関連しているのかもしれません
シェフ

劇中でせき込む姿が散見され、病気の伝染が起きていることを表現しています。
シックスが盗み食いを繰り返していた厨房のシェフです。
浮浪者となっていたシックスを追い回すうちに伝染病をうつされ、のちのパンデミックを発生させる原因となりました。
レザーフェイスが見た目の元ネタだと思われます。
ゲスト

レディの高級料理店に訪れる財産を持つ大人達です。シックスが飢えて苦労しているのに、彼らは丸々太っています。
子供であるシックスに比べれば大食漢であり、シックス自身も食べようとするのではないか、という勘違いをしたのかもしれません。
ラストシーンは彼らが病に倒れ、次々と死んでいくという刺激的な表現になっています。
元ネタは「千と千尋の神隠し」だと思われます。どちらも寓話譚なので、事前に研究したのだと思われます。
まとめ
とまぁ、ここまでリトルナイトメアの世界が、あくまで現実のできごとを置き換えて描いている、本作は20世紀初頭で起きていた孤児達の生活や、貧富の差を題材にし、それを寓話として描写した作品として解説してみました。
といってもこれは私の解釈に過ぎませんから、純粋にファンタージ世界だと捉えるもよし、また異なるメタファーと考えるもよし。抽象化された世界で、映像だけで表現しているため、受け取り方には幅が生まれています。
様々なヒントがちりばめられているので、繰り返し見てみれば、まだ新たな発見があるかもしれないです。それこそがリドルストーリーが持つ持ち味なので、色んな考察をしてみるのも面白いと思います。
なんか色々的はずれなこと、間違ってる事が多くて草