寓話の世界をゲームにしたリトルナイトメアシリーズの第二作が出たので、それにまつわる大まかな流れについてまとめています。
リアルとファンタジーの両面性がある寓話としての側面を持っており、純粋なファンタジーとしてとらえるもよし、現実に起きた出来事を抽象的に描いていると捉えるも良しな多面的な作品になっています。
本稿では主に寓話の元ネタ、現実に何が起きたのかの推察についてを取り扱います。ファンタジー的な側面に関しては殆んど触れていません。
目次
リトルナイトメアの寓話性

寓話とは、比喩や擬人化などの要素によって、過去の失敗などを照らし出したり、道徳の重要性を表現したりする作風です。風刺や擬人化などの要素が含まれており、童話の中には寓意を含むものも少なくありません。
代表的な例として「不思議の国のアリス」は、表向きこそ少女を主人公としたファンタジーなんですが、当時のイギリスにおける社会、政治、民衆に対する風刺が多分に含まれています。
童話の中には、過去に起こった悲惨な出来事をモチーフにしている例もあり、「ヘンゼルとグレーテル」は大飢饉のおりに多発した子捨てがモデルだと言われています。
ではリトルナイトメアの世界はというと、これも一見するとファンタージですが、背景の描写には一貫した側面があります。
例えば1作目の冒頭部分では、誰かの自殺現場から始まり、児童養護施設と思われる場所を探索することになります。これは主人公の生い立ちや、今置かれている状況を説明するためのものです。
同様に脈絡のないように見えるショッキングなイベントにも風刺としての側面があり、寓話でよく用いられる擬人化の表現だと見えるように作られています。
ミステリ小説などでは普遍的なトリック・手法なども、ゲームに取り入れられている例は少なく、本当は怖い童話の世界をゲームで表現しようという開発側の意図が見られるわけです。
見る人によって様々な解釈ができ、正確な答えがないリドルストーリーを目指した作品になっています。
リトルナイトメア2 -前作とのつながり-

リトルナイトメアは異なる解釈ができるように作られた作品ですが、リトルナイトメア2でもその部分は継承されています。
ここでは大まかな解釈としてファンタジー、リアルと区分することにします。それによって、これが前日譚なのか、後日譚なのか左右されます。
リトルナイトメア2をファンタジー的な側面として見る場合、前作リトルナイトメアの前日譚になると思います。ラストのシーンでシックスが腹を鳴らし、前作の舞台を示すチラシを見つけるシーンで終わるからです。

その一方で、風刺の元になったリアルの事件としては、前作よりも後の時代であることが示唆されています。リモコン付きのテレビ、エアコンの室外機、病院の心電図など、前作よりも進んだ科学技術が見られるからです。
それら家電製品が普及するのが1980年代あたりなので、20世紀の前半に相当する時代設定だった前作の後日譚になるわけです。
リアルの視点からは、前作で扱われたテーマやモチーフが引き継がれていませんし、シックスも見た目が同じなだけの別人であるので、連続性が殆どない続編と言えるのかもしれません。
現実世界のモノとシックス

モノは本作の主人公です。数字の1を表す名前を持っています。
7つの大罪に対応する悪魔の1番目は、傲慢を表すルシファーです。その傲慢さ故に大きな過ちを犯してしまった子供を表しています。
行動力に富んでいて、何も前のめりに行動して、こうと決めたら周りが見えなくなります。幼馴染のためになら危険を冒せますが、出来心から大きな過ちを犯してしまいます。
秘密を共有しているシックスには黙っているように言い含めますが、彼女への対応をがあまりにガサツ過ぎたため、その後の密告へと繋がっていきました。
落ち込んでいる女の子の宝物を壊すとか、フラグブレイク待ったなし。

シックスはそんなモノの幼馴染です。どちらかというと内向的なタイプのようで、学校ではイジメの標的にされます。また抱え込んだ秘密の大きさに怖くなり、自分の世界に閉じこもるようになります。
前作の主人公と同じ姿、同じ名前をしているものの、前作との繋がりは特になさそうです。
前作のシックスは7つの大罪の6番目「ベルゼブブ」をモチーフとしていました。暴食の大罪を表す悪魔で、古くから疫病を媒介する不浄の存在だと思われていた蠅の王にあたります。
前作のシックスは、本来はネズミを宿主とするウィルスを人類に持ち込んでしまった孤児の子ども、それによって突然変異を起こしたウィルスの擬人化という役割でしたが、今作ではモノを失意のどん底に突き落とす「密告者」になります。
現実世界で起きた出来事
正解がない作風なのですが、比喩や風刺として一貫した表現があります。
放任主義の片親、学級崩壊など、金八先生とかで題材にされそうなネタの詰め合わせで、現代に通じる子供の問題を扱っています。
前作が少し複雑なテーマ、叙述トリック的な構成、馴染みがない時代背景を持っていたのに対して、本作では子供の頃にあったトラウマ体験、禁忌を犯す → 恐ろしい体験をするという直球のホラーになっています。
第一章

どこか古臭さを覚える山奥。そこに暮らす一家を惨殺したハンターが、モノたちを追いかけるが、銃で返り討ちにされるという内容になっています。
物語の導入部分にして、最も謎が多いパートだったりします。
シックスで出会った部屋には、彼女が監禁されていたことを示す壁の落書きが残っていますが、これが家族の虐待を示すのか、変態おじさんハンターの犯行なのか。後者の場合は、シックスの家族は殺されたことになります。

前作のプレイヤーは、シックスの正体が変異ウィルスの感染者という情報を持っているので、それを隔離しているとミスリードさせるための引っ掛けにも思えます。思い出したように、咳をしているのも意味深。
このパートの終わりでは、わざわざ海を移動するシーンが挿入されていますが、一般的には時間経過を表す作劇手法です。次のパートが学校なので、小学校に上がる前の幼少期を表していると見るのが無難です。
次章との断絶感が強いパートではあるので、幼少期のなんでもない出会いを脚色する意図での導入で、モノの中二病的な妄想という線も捨てきれないです。
第二部

第二部以降ではリアルよりの描写が増え、前作とは若干異なるテイストになっています。
高圧的で目ざとい理科の先生に、暴力的ないじめっ子に、昔のドラマみたいな学級崩壊と、小学校~中学校でありがちなトラウマを題材にしたパートになっています。
モノは持ち前の無鉄砲さを発揮して、いじめっ子の標的になっていたシックスを救い出しますが、彼女は身体的にか、精神的にか不明瞭であるものの、深い傷を負うことになります。
導入の導入みたいな立ち位置になるので、電波塔がどうとかのあらすじが未だに関わってきません。
第三部

病院で起きた医療事故を扱うパートで、本作でのターニングポイントにあたります。実質的にはここからが本編です。
学校でのイジメの後遺症からか、病院にいくことになった二人。
子供の無知さからくる悪戯心からか、あるいはシックスに良いところを見せようとしたのか、モノは入院患者の生命維持装置を切ってしまい、取り返しの付かない事態を招きます。
現場にいた医者の目を盗みモノとシックスは逃げ出しますが、2人の間には誰にも話してはいけない恐ろしい秘密が生まれました。
第四部

ここまで空気だった電波塔の話がようやく主題になってきます。
誰かに生命維持装置を切られる事件が起きた街中では、テレビによって噂が一人歩きし、住民たちの犯人捜しが始まります。犯人であるモノと、その秘密を知るシックスは、他者の目を恐れる羽目になります。
怪人のノッポ男が本格的に登場し始めるパートですが、その正体は「自分の子供に関心がないモノの父親」あるいは、「シックスの父親(あるいは養父)」になると思われます。

背景に似顔絵として描かれていますが、後にモノが辿った結末を考えると、モノの父親というのが本線だとは思います。
過去の例だと、必ず主人公の生い立ちに関する比喩があったのに、モノだけ何もないとは考えにくい。
第五部

モノは連れ去られたシックスを追ってノッポ男と対峙します。モノは自分の覆面を取りますが、それは秘めていた心情を吐露する、何らかの秘密を明かすことの比喩です。
医療事故の顛末をばらしたか、シックスがイジメにあっていたのを暴露したか。まさかの告白によってノッポ男は打ちのめされ、モノの行く手を塞ぐのを止めてしまいます。
ぶっちゃけ、自分の子供が渦中の殺人犯だったら、狼狽えて当然だとも思いますが、やんちゃ過ぎるモノからすれば、情けない大人だと映ったかもしれません。
モノは塞ぎ込んでいたシックスの元にやってきます。宝物のオルゴールを抱えて現実逃避しているシックスの姿に痺れをきらし、それを破壊してしまうという暴挙に出ました。

心の拠り所を失ったシックスは、立ち直ったかに見えたのですが、彼女の中では暗い感情が渦巻くことになりました。
序盤のハンター周りの描写が本当に起きた事件ならば、彼女の家族は誰かに殺されたことになり、殺人犯なのはモノも同じ……。
世間では医療事故の犯人探しが続いており、その感情はシックスによる密告へと繋がっていきます。
その直後に2人を追いかけてくるグロテスクな眼球の化け物は、敵意ある第三者の視線の比喩だと思われるので、シックスが手を振りほどいたことで、モノは悪意の奈落へと転落していきます。

モノが起こした事故、事件は白日のものとなりました。世間の反応はあまりに冷たく、また考えてもいなかった幼馴染の裏切りもあり、モノが持っていた生来の明るさや行動力は失われ、鬱屈した大人へと成長していくことになります。
そうまるで自分が嫌っていたノッポ男のような……。
シックスは犯人捜しの渦中から逃げ出すことができましたが、彼女の中では幼馴染を失ったことによって満たされないものが生まれました。
ファンタジー的な元ネタ
この手の風刺系の作品は表の側面がナンセンス系になりがちです(不思議の国のアリスとか)。
なので細かいことを詰めても仕方がない側面はあるのですが、元ネタになっているだろう題材について列挙しておきます。
ギリシャ神話
PC版のプロジェクト名、実行プロセス(プログラム名)が「Helios(ギリシャ神話の太陽神)」になっています。密告者の神であり、風刺部分と関連性が見えます。
なお前作のリトルナイトメアは「Atlas(ギリシャ神話の巨人)」になっており、ゴルゴンの目で石化するシーンにのみ関連性が見られました。
ゲーム全体を包括する名前になっているくらいなので、元々はギリシャ神話のテイストが強い作品だったのかもしれません。
キリスト教の悪魔
主人公の名前に関連しています。7つの大罪の1番目「傲慢のルシファー」、6番目が「大食のベルゼブブ」です。
今作では主人公の性格や、失敗の要因との関連が見られます。
前作では腹ペコのキャラ付けや、疫病の媒介者(蠅)、海外小説「蠅の王」など、作品に対して前面に押し出してきています。そもそも初期の発表タイトルがベルゼブブだったので、あんまり隠すつもりも無かったみたい。
結局、ウィルスの意味が後からにじみ出るリトルナイトメアに変更されました。
スレンダーマン
10年くらい前の海外ホラーミーム。ノッポ男のモチーフと思われます。日本でいうなら八尺様?
この考察が1番好き。