2022年の当初にあったゲーム業界の大事件であるアクティビジョン・ブリザード買収がようやく決着をみました。足掛け1年と9か月であり、これによってゲーム業界は再編されると見られます。
本項では、そんな買収劇について、時系列順に大きな動きをまとめています。
国内のニュースサイトでは、会社の都合もあって触れにくそうな話題もあるようですが、その辺りは海外のニュースサイトを引用して、触りだけは掲載しています。ソース元も記載していますが、どこまで本当かは分からないので、その辺りは考慮しておいてください。
Xbox Series Xの発表以来、滅茶苦茶にやる気を見せているMSと、ずっと後手後手に回って何がしたいのか分からないソニーが対照的であり、国内におけるCall of Duty人口の復活に繋がるのか注目です。
目次
アクティビジョンの買収が発表

2022年1月18日
アメリカにある巨大IT企業群ビッグ・ファイブの1つである「マイクロソフト(MS)」から巨大な買収計画が発表されました。
買収先は大手ゲーム会社「アクティビジョン・ブリザード」で、買収に掛かる費用も10兆円と凄まじい金額が計上されました。先にあったベセスダの買収からしても、けた違いの巨額計画になることが予想されました(ベセスダは1兆円)。
代表的なアクブリの製品としては、
- Call of Dutyシリーズ
- クラッシュ・バンディクー(版権を買い取った)
- オーバーウォッチ
- ディアブロシリーズ
- Sekiro (フロムとの共同)
――などが挙げられます。
私みたいな対人ゲーム大好き人間だとCodですが、今の日本だとSekiroの知名度があるでしょうか。買収後にSekiro2が出るとしたら、MS傘下になるということです。
昨今のアクブリ社は度重なる不祥事、社内セクハラ告発などで、経営陣は苦境に立たされていました。内部の綱紀粛正、立て直しを図るにしても困難が予想され、ある種の損切りを狙って身売り先を探し始めたのが2021年のこと。
- MS側から業務提携の話がくる
- 11月16日
- 業務提携の話が拡大して買収の流れになる
- 11月19日
- アクブリが3社(MS以外は不明)に買収の話を持ちかける
- 12月中?
- MSによる買収の発表
- 翌年1月18日
巨大企業MSであっても、ゲーム事業においては3番手なので、独占禁止法に触れることもなさそうでしたが、買収に動く金額が金額だけに、各国の承認がどうなるかが注目でした。
Call of Duty 10年契約

2022年3月9日
ユーザーの焦点になったのは、ほぼ毎年リリースされているCall of Dutyシリーズの今後でした。
国内ではPS3時代のCall of Duty Modean Wafare3(2011)、PC版に限った話だとMW2(2009)を最後に失速して久しいですが、本国アメリカにおいては、まだまだ影響力が健在であり、米国での年間セールスをほぼ総なめにし続けています。
基本プレイ無料のバトロワ界隈でも、後発だった筈のCod:WZがApex Legendsに取って変わり、世界第二位のプレイヤー数を持つに至ります。
そんなCodシリーズはPlaystation要するソニーとの関係も深く、長年に渡ってPlaystationを優遇するような販売形態を取っていました。優遇措置を取る代わりに、Codシリーズの広告宣伝費をソニー側が負担するという契約があったようです。
当然、Codシリーズの今後を憂慮する声が各方面からあがります。MSも既存の契約は引き続き順守するし、Codシリーズに関しては他ハードにも提供し続けると答えました。
そうして登場したのがCodに纏わる10年契約です。法的な拘束力がある契約であり、施行から10年に渡っては、Codシリーズの最新作をXboxで独占しないというものです。
ソニー、Google、Nvidiaはこの契約を拒否しましたが、任天堂については割と二つ返事で契約を認めました。
その後、クラウド事業にてライバルでもあるNvidiaに対しては、Codシリーズだけではなく、将来的に出る最新ゲーム全てを10年間提供するという形で契約を結びます。妥協を持ってでも、買収を進めたいという意思の表れかと思います。
2陣営による激しい争い

2023年2月22日
その一方でソニーとの話はまるで進みませんでした。
後からリークされた情報によれば、ソニー側の要求が非現実的だったので、そんな契約はどうやっても飲めないとバチバチ状態だったらしいです。
具体的には、
- 発売済みであるアクブリ全てのゲーム、今後発売する全てのゲームがPSでもプレイできるようにすること
- 且つ、ゲームの内容に差を設けない
- 且つ、価格差を付けない
- サブスクリプションサービスにおいても全く同じにする
- 買収に際して、ソニーがアクブリと交わしていたマーケティング契約を破棄すること
- 既に買収済みであるベゼスダについても同じようにすること
- 次世代機PS6の情報は今後渡さない
- 現行PS5の開発キットを意図的に供給遅延していた
――などです。
ソニー割と滅茶苦茶言ってます。
まず既存のゲームを全部同じにするのは、開発コストが掛かり過ぎるので現実的ではありません。というか、旧作についてはXbox Series SXに対応させるかも怪しいです。
価格についても、ストアの中間手数料などが発生しないファーストタイトルの方が安くなるのは当然です。というか価格カルテルに相当するので、それこそ独占禁止法に違反する契約のような……。
買収とは関係のない他スタジオの作品にも言及しており、現在開発中のゲーム全てのリリース計画が変更、年単位で遅れることになるので、MS側が飲めるわけがありません。PS版の開発が終わるまで、発売前のゲームを全部待機させる羽目になります。
絶対に買収を頓挫させてやるというソニーの意気込みだけは感じられますが、これだけ強硬だと交渉の余地なしと判断されても仕方がないと思います。
英国CMAの暴走?

2023年4月25日
というわけで、ソニーとの和解交渉は全くまとまらず、放置状態のまま買収に纏わる公的機関の調査は進んでいきました。各国で順々に買収が承認されていき、日本においても問題ないと判断されました。
暗雲が立ち込めたのは米国ではなく、英国のCMA(競争・市場庁)の方で、ゲーム事業は問題ないが、クラウド事業に問題があるとして、買収を認めないと結論を下しました。Xboxは売れてないけど、クラウドのシェアは高いからダメ!ということです。
クラウドというのはクラウドゲーミングのことで、遠隔にある企業サーバーでゲームを動かし、そこから送られてくる映像を見ながら、スマホなどの端末にて各自がプレイするというものです。
遅延や料金などの問題もあって、クラウドが急拡大するとは思えないのですが、ダウンロード販売の方が圧倒的に多い英国のお国柄だと、そういうこともあり得るのでしょうか。
CMAの決定に対して、MS側は遺憾の意を表明し、最悪の場合では英国の市場から手を引くとまで示唆しました。
実際問題、英国のゲーム売上は決して大きくありません。多く見積もって1200億円ほどと言われているので、世界第二位のゲーム市場を持つ日本の20分の1しかありません。市場が小さくてパッケージでゲームを売っていないから、ダウンロード販売の割合が凄く大きい国なのかもしれません。
結局、損をするのは国内のゲーマー達なんですが、なりふり構わずに我が道を行くところがエゲレス人っぽいです。
FTCと反ビックテック

2023年7月12日
そんな中、遂に本国である米国での裁判も大詰めとなります。FTC(連邦取引委員会)が起こした差し止め訴訟の期日が迫りつつありました。
英国と違って米国はおひざ元であり、世界のゲーム市場で第一位。また日本と違ってCall of Dutyが飛ぶように売れる国なので、ここを落としては買収は立ちいかなくなります。
ここで問題となったのが、米国における政治事情です。単純なゲーム企業にまつわる買収劇というより、ビックテック vs 反ビックテックの争いへと推移しました。
巨大化し続けるIT企業に対して、独占禁止法を改正してでもブレーキを掛けようとする政治的な動きがあり、FTCはその急先鋒と見られました。多少業種が違っていても取りあえず訴訟しますし、また法律を改正しようと活動しているわけです。
今回のアクブリ買収についてもFTCは口を挟んできましたが、元が大儀優先の訴訟ですから、MS優位のまま進んだようです。この辺りで先に触れたソニーとのイザコザが暴露されたり、薄型PS5、次世代Switchの話が出てくるなどしました。
判決については、案の定というか、FTCが先走り過ぎてMS側の勝訴。控訴についても理由がないとして棄却されました。FTCの訴状は現行法だと良くてグレー、今回だと明らかに白の事案を無理やり問題にするのですから、裁判での勝率が良くないのは当然なのかもしれません。
これで障害になるのは英国CMAだけになり、それについては最悪市場撤退でも何とかなるので、事実上のアクブリ買収が決定した日になりました。かくいうCMAも孤立無援の状態になり、MSとの妥協を模索し始めました。
ソニーとの和解

2023年7月16日
裁判結果がMS側の完全勝利。残るCMAが妥協を模索し始めたため、ソニーも遂に折れました。
あまりにも過大だった要求は以下のように修正されました。
発売済みである全てのゲーム、今後発売する全てのゲームがPSでもプレイできるようにすること- 今後に発売するCodシリーズにのみPSでもプレイできるようにする(10年保証)
且つ、ゲームの内容に差を設けない且つ、価格差を付けないサブスクリプションサービスにおいても全く同じにする- 買収に際して、ソニーが交わしていたマーケティング契約を破棄すること
既に買収済みであるベゼスダについても同じであること- 次世代機PS6の情報は今後渡さない(不明)
- 現行PS5の開発キットを意図的に供給遅延していた(改善したのか不明)
結果的にはソニーの吹っ掛けた要求はほぼ通らず、CODシリーズについてはリリースを約束する形になりました。ゲーム内容がどうなるかは不明ですが、既存ユーザーを敵に回すリスクがあるので、MS側もあからさまに差を付けるようなやり方はしないでしょう。
合わせて、ソニーとアクブリ間にあったマーケティング契約が破棄されています。
流石にライバル企業のゲームを宣伝するのにお金を出したくないでしょうし、昨年度より規模が縮小していると言われたら新たな火種になるので、ばっさり破棄という形が妥当には思えます。
差し当たってPSユーザーにおけるCall of Duty問題は目途が付きましたし、ソニーも被害を最小限に抑えたという印象です。
同年の9月にはPlaystation事業のトップで、SIEのCEOあるジム・ライアン氏が退職を表明するなどありましたが、後手後手に回っているPS界隈の今後が注目されます。
いきなり出てきたUBI
2023年8月21日
残るは英国CMAだけとなって、MS側も完全解決を目指し始めます。最悪、英国は切っても買収は終わらせると言っても、妥協によって被害を抑えるのは当然のことです。
そして、いきなり出てきたのがUBIソフトでした。
UBIフランスのゲーム開発・販売を行う会社で、
- アサシンクリード
- トム・クランシー各種
- FarCry
――などで有名です。最近は資金繰りが悪化しているとか、作品のクオリティが下がったとか、悪いうわさが少し多いですが、フランスの大企業です。
これまでは全く無関係だった同社ですが、突然MSからのクラウド事業の権利を譲渡され、MS作品のクラウド展開を行うことになりました。
ちなみに契約内容は今後15年間に渡ってリリースされるAB社由来のゲーム全てです。任天堂、Nvidiaが全ゲームを10年、ソニーがCodのみ10年だったところをいきなり15年と巨大です。
イギリス本国ではなく、隣国のフランス企業というのがMSの嫌がらせなのかは不明ですが、CMAが危険視していたクラウドのシェア率が減退したことになります。
買収が終了
2023年10月13日
殆んど2年の歳月をかけた一連の買収騒動にも決着が付き、680億ドルを超える金額によってアクブリの買収が終わりました。
ハッキリ言って、これで利益を得るというのは不可能なのはMS側にも分かっているでしょう。アクブリの営業利益が年間3000万ドルなので、元を取るまでに2000年も掛かります。
実際には経済規模の拡大、インフレなどが発生するので100年も掛からないでしょうが、計画的に元を取れるような話ではありません。
なのでMS側の狙いは利益以外の部分にあるのは明白で、それがゲーム業界に良い影響を与えるのか、悪い影響を与えるのか、現在のところは不透明です。
差し当たっての変化としては、アクブリが保有していた各種IPのゲームがMSの展開するGamePassへと追加されるでしょう。
GamePassというのは月額課金制のサブスクリプションサービスで、月1000円以下の料金で対応ゲームが遊び放題になるというものです。気になるタイトルがリリースされたときだけ加入することで、新作も1000円で遊びつつ、余った時間で旧作にも手がだせるとあって、抜群のコストパフォーマンスを持ちます。
開発費を回収できそうもない事業的に失敗したゲームの投棄所になっている側面もありますが、予算をふんだんに使ったMSファーストタイトルの殆どが対応しており、発売日から新作が遊べてしまうのが他のゲームサブスクと異なる点です。
そのパターンであれば、MS傘下になったCodシリーズの最新作、予定ではBO2のリメイクになるという話がありますが、それのGamepass加入も十分に考えられるというわけです。
元々はソニーとの契約で2025年までは無理だったのですが、前述の通り、既存のマーケティング契約は破棄されています。旧作Codシリーズのサーバーが再稼働しているという話もありますし、こららは来年にもGamePassへ追加されると見られます。
格安のサブスクとなれば人口の拡大が発生するので、懐かしいCodのマルチをプレイするチャンスかもしれないですし、フランチャイズの今後が期待されます。
次世代機(PS6)の技術対策かなーとは予測