ポケモン民話集 「リングマ」

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2024年10月13日にポケットモンスターの開発元であるゲームフリークから機密情報が大量流出し、海外を中心に様々な資料が公開されています。

本稿はそんなリーク情報の中に含まれていた文書のうち、分量がかなり多い「リングマ」の創作民話まとめです。原文とは改行の位置、「」の扱いなどが異なります。

アイヌ(厳密にはアイヌの一部集落)では熊の逸話が多いので、北海道を題材にしたポケモンDPにおいても熊の存在は大きかったのだと思われます。ポケモン世界における架空の民話を創作するにあたって、執筆チームが試行錯誤した跡が見られます。

ミオシティにある「トバリの神話」の原型、完全版とも言える内容になっています。

本編

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まだ人とポケモンの境が曖昧だった昔。北の果てに一つの村があった。

村一番の腕を持つ猟師は、リングマとヒメグマを獲って暮らしていた。猟師は、一日に十匹のリングマを獲り、もっと多くのヒメグマを獲った。仕留めたリングマたちの毛皮を剥いで、それを売って暮らしていた。毛皮を剥いだ後の死骸は、村の外れの茂みに捨てた。毛皮はよい金になったので、妻は猟師にもっと多くの獲物を獲ってくるように言った。

猟師はより多くの獲物を捕るために、新しい狩りの道具を手に入れた。それはとても鋭い刀だった。
刀を持って狩りに出かけると、リングマたちは酷く怯えたので、とても簡単に殺すことができた。なのでさらに多くの毛皮を手に入れられるようになった。

あまりに沢山獲れすぎるので、やがて毛皮は売れ残るようになった。売れ残った毛皮は、村の外れの草の茂みに捨てた。それでも猟師とその妻は、リングマたちを狩るのを止めず、毛皮をとり続けた。

猟師の夫婦には一人の息子がいた。

秋のある日。猟師の息子は父親の代わりに狩りに出かけた。家を出るとき、父親は息子に刀を貸し与えた。しかし、息子がいくら森の中を探しても、リングマにもヒメグマにも出会えなかった。息子はリングマたちは眠っているのかも知れないと思い、巣穴を探し、覗いて回った。しかし、どの巣穴の中にもリングマはいなかった。

太陽が沈み、月が顔を出す頃。息子は狩りを諦めて、村へと帰る事にした。息子が村のある方の空を眺めると、村の上の空が赤く輝いていた。

息子が村にたどり着くと、村中の家が燃えていた。そして村のいたるところで、沢山のリングマが暴れていた。リングマたちは、家々に火をつけて回った。そして、燃えさかる家の中から逃げ出した人々に襲いかかり、次々と殺して回った。

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村の至る所に体を引き裂かれた村人の死骸が転がっていた。息子は両親が心配になり、家へと急いだ。

家の前にたどり着くと、ひときわ大きなリングマが父を掴み、殺そうとしていた。その傍らには、皮を剥がれた母親の死骸が転がっていた。

息子が刀を構えると、リングマは叫ぶように言った。

「お前の父親は、眠っているあいだにわたしたちを殺す。だからわたしたちは眠ることもできない。
お前の父親は、その刀が恐くて動けないわたしたちを殺す。だから私たちは逃げ出すこともできない。
お前の父親は、毛皮を剥いだわたしたちを粗末にして捨てる。だからわたしの家族は、死んでしまってもまだこの村にいる。みんなどこへ行っていいか分からない。だから、わたしたちのところへ戻ってこない」

息子は刀を下げ、言った。

「確かにお前の言う事はもっともだ。確かにお前たちが怒るのも仕方ない。でも、僕たちだって仕方ないんだよ。僕たちは、お前たちの毛皮を着なければここで生きていくことができない。凍えて死んでしまう。だからお前たちが必要なんだ。それはお前たちに、木の実が必要なのと同じだ。コイキングが必要なのと同じだ。そう、きっと土を掘って、巣穴をつくるのとも変わらない。ただ、僕の父さんと母さんは、やりすぎだ。だけど、僕はやりすぎない。もうこれからはあんなことはしない。こんな刀もいらない。だからもう許してくれ」

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「お父さんを殺さないでくれ」

そう言って息子は刀を地面におもいっきり叩きつけた。すると刀は、音をたてて折れた。それを見たリングマは言った。

「わたしたちの家族は、まだここにいる。どこへ行けばいいか分からず、ここで迷っている。だから、お前にわたしの子供を預ける。お前は、その子と一緒に暮らすんだ。やがて大きくなったわたしの子供が、ここにいる家族たちを、わたしたちのところへ導くまで」

言い終わると、掴み続けていた父親の腕を噛み砕き、その場に降ろした。そしてリングマたちは村から去っていった。

次の日の晩。村人達は死んだ身内を、村の近くにある大きな河に弔っていた。大きな河の水面には、大きな月が映っていた。息子も、母親の死骸に、母が好きだった綺麗な着物を着せて、河に沈めた。すると、母親の死骸の周りに沢山のコイキングが集まった。コイキングたちは母親を背負うようにして、月の映る河の向こうへ消えていった。

息子が家へと戻ると、家の前に一匹のヒメグマがいた。両腕に沢山の木の実を抱えていた。息子はヒメグマを家に招きいれた。息子の方が歳上だったので、そのヒメグマは息子の弟になった。

次の日からヒメグマの弟は、毎日木の実を採りに出かけた。息子も一緒に出かけた。採った木の実を持って帰り、それを大切にしまっておいた。

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やがて辺り一面が雪に覆われて、木の実が採れなく頃になると、ヒメグマの弟は毎日家で眠って暮らすようになった。息子も一緒に眠って暮らした。

二人はたまに目覚めると、しまっておいた木の実を食べて、また眠った。あるとき息子が目覚めると、弟のヒメグマは立派なリングマに進化していた。それから間もなくして、春が訪れた。

ある日。息子の父親が病気で死んだ。日が暮れると息子は、母親と同じように父の亡骸を大きな河に弔いに行った。大きな河の水面には、大きな月が映っていた。父の死骸を河に沈めると、死骸の周りに沢山のコイキングが集まった。コイキングたちは、父親を背負うようにして、月の映る河の向こうへと泳ぎ出した。すると、川岸に一匹のリングマが現れた。リングマは、父親の周りに集まっているコイキングを一匹捕まえた。そしてそれをくわえ去っていった。

春になると、リングマの弟は息子を狩りに誘った。息子は木で弓矢をつくってから、二人で出かけた。
リングマの弟は、リングマたちが集まる場所に案内してくれた。そこはとても澄んだ湖のほとりで、その西側と東側にリングマたちが集まっていた。リングマの弟は息子を東側のほとりに連れて行き、そして大きく吠えた。すると一匹の年老いたリングマが立ち上がり、息子に言った。

「毛皮が必要ならば、ここにいるリングマを狩りなさい。だけど、西のほとりにいるリングマたち、そしてヒメグマは狩ってはいけない。この約束が守れるのなら、私を狩りなさい」

息子はうなずき弓を構えた。リングマは逃げることもせず、矢を浴びた。

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うちに帰ると、リングマの弟は、今日狩った獲物が誰なのかを教えてくれた。それはリングマの弟の、ひいおじいさんだった。毛皮を剥いだ後の死骸は、綺麗な着物を丁寧に着せ、両親の死骸と同じように河に流した。息子はそれから必要な時だけ狩りに出かけた。約束を守り、湖の東のほとりにいるリングマだけを狩った。獲物になるのは全てオスのリングマだった。

それからさらに何日が過ぎたある日の晩。息子が薪を拾いから家に戻ると、弟のリングマが歌い、踊っていた。息子に気がついた弟のリングマは言った。

「この踊りを終える頃、わたしは皆を連れていきます。明日になったら、村の真ん中に大きな火を焚いてください。そして、私の、目と心と声をその火の中にくべてください。私のそれらが燃え尽きるまで、この歌を歌い、この踊りを踊ってください」

息子とリングマは、夜明けまで、共に歌い、踊った。太陽が昇る少し前、弟のリングマは眠るように静かに息を引き取った。

息子は弟のリングマの言う通りに、村の広場で大きな火を焚いた。弟のリングマの死骸から、その目と心と声を切り分けた。それらを、火の中にくべ、歌い、踊りはじめた。大きな煙があがり、それは山に向かって流れていった。山々からリングマの遠吠えが聞こえた。やがてすっかり煙が尽きるまで、その遠吠えは山々に鳴り続いた。

考察と備考

トバリの神話(ゲーム中に採用された文面)

剣を手に入れた若者がいた。それで食べ物となるポケモンを無闇やたらと捕らえまくった。余ったので捨ててしまった。次の年、何も取れなかった。ポケモンは姿を見せなくなった。若者は長い旅の後、ポケモンを見つけだし尋ねた。

「どうして姿を隠すのか?」

ポケモンは静かに答えた。

「お前が剣を振るい仲間を傷つけるなら、私たちは爪と牙でお前の仲間を傷つけよう。許せせよ。私の仲間たちを守るために大事なことだ」

若者は叫んだ。

「お前たちポケモンが生きていること剣を持ってから忘れていた。もうこんな野蛮なことはしない。剣もいらない。だから許してほしい」

若者は剣を地面に叩き付けて、折って見せた。ポケモンはそれを見るとどこかに消えていった。

リングマ

ヒスイの地を寒気覆いたる季節好物の木の実集めに野山を徘徊す。空腹ゆえ気が立ち極めて凶暴。

Pokémon LEGENDS アルセウス

《リングマ》は一連の内部資料において、最も扱いが大きいポケモンです。これは元ネタであるアイヌ民話において、熊の存在が大きな影響を持つからだと推測されます。自然の恵み、脅威、友人として、様々な役割が割り当てられています。

本稿のようなリングマ題材の資料以外でも《リングマ》は登場しており、《バクフーン》の稿も《リングマ》が主人公だった形跡があります。《オクタン》の稿では、「トバリの神話」の増長した主人公を介錯する役目であり、むしろ《オクタン》よりも目立っています。

ギャロップ》の稿では、《リングマ》を使用した完成度の高い短編が存在しています。人類の良きパートナーとして描かれていますが、バッドエンドに終わっています(元々、こちらに載せていましたが《ギャロップ》の方に分離しました)。

ヒメグマ

掌に染む甘き蜜を舐める仕草。ミツハニー集めし蜜を巣より 頂戴し我がものとするしたたかさ。

Pokémon LEGENDS アルセウス

《リングマ》に比べて扱いが小さく、《リングマ》の幼体として言及されるに留まります。

ガチグマ

ヒスイの地に敷かれし湿地の土こそ頑丈なる体躯と泥炭を自在に扱う新たな器量もたらしたと考察す。

Pokémon LEGENDS アルセウス

「Legends アルセウス」で追加された《リングマ》の進化系なんですが、DP時点で執筆されたと思われる内部資料には、《ガチグマ》を想起させる内容も見当たりません。

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ななし
ななし
1 日 前に

素晴らしいまとめですね。
データ流出させた犯人も喜んでるかと思います。